Archi-TV2009 レポート |
毎年行われているイベントには一年経つという実感がもれなくついてくる。もうあれから一年、、。
さて、今年のテーマは
「建築道 1/1のリアル」。
企画ごとに24時間分レポートしていきます。たった一年でtwitterやustreamが普及し、データの蓄積がはんぱないですね。
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「講演会1 建築学生から建築家へ 1/1というリアルを巡って」
学生時代、コンペキラーだった成瀬、猪熊両氏を迎えて行われたシンポジウム。
成瀬氏はそのまま独立し、猪熊氏は千葉事務所に2年間勤めて合流した経緯を持ち、比較的年齢も学生に近く、和やかな雰囲気でスタート。
直近のプロジェクトから学生時代のコンペまで、時系列を遡る形で進められた。
「Growing from Context」と題し、コンテクストをどう解釈し、利用し、秩序化するかという一連の設計思考をプレゼンしていく。
まずは記憶に新しい「ひとへやの森」。
ワンルームの中というコンテクストを無名、無印な風景の集積と捉え、インテリアというより都市として捉えることで解釈していく。
結果的に、木のようなオブジェを一本一本「植える」という手法が生み出され、その密度によって家具や人のアクティビティをなんとなくデザインしていくという設計過程となった。展覧会というプログラムに対し、モノやコト、ヒトをどのように「自然に」埋め込んでいくかということが焦点となったプロジェクトであり、そこで起こるコミュニケーション自体もデザインの対象として扱われていた。
続いて、現在進行中の「大井町の集合住宅」、「木のイス」。
どちらも、クライアントに対してどのようにアプローチするかに焦点を当て、学生には興味深い内容。
「大井町の集合住宅」では、クライアントに対してはいかに儲かるかを前提に建築を考えていることをアピールし、それを形態に繋げていく手法を披露。大井町と言う立地から対象住人をアッパーミドルの30代サラリーマンと想定し、建築の高さを付加価値に置き換え、塔状の集合住宅を提案。
「木のイス」では合板の新しい使い方を製材屋とのコミュニケーションの中から提案。
次は成瀬氏は博士課程に、猪熊氏は千葉事務所に在籍していたときの内装の物件。
このクライアントは非常に親切で最初の実施としてはラッキーだったと。
最後は学生時代のコンペ。
「9坪ハウス」、「収納の森」tepco、「住み変わる家」を立て続けに紹介。
「考えていることはあまり変わっていない」のだそうだ。
学生時代との差は膨大な他者と関わり合うことと述べ、打ち合わせの状況を説明してくれた。中には企業の重役がずらっと並んだ中でプレゼンをしなくてはならなかったこともあったが、回を重ねるごとに手応えをつかんでいったと言う。決定権は自分ではないこと、人とかかわり合いながら設計するというリアリティが決定的な差だと。
その後、同じ壇上に上がってた招待学生からの質問を媒介に学生目線の議論が続き、切れ目なく聞きやすい議論となった。
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「夕食懇親会×学生プレゼンテーション」
直前の成瀬猪熊講演会からの連続で講演会で壇上に上がっていた学生が今度はプレゼン側に、成瀬猪熊両氏はコメンテータとして参加。
招待された学生は、コンペキラーや実施プロジェクトを立ち上げている人まで多岐にわたり、それぞれに対して両氏から意見が投げかけられ、有益なコミュニケーションの場となっていた。講演会でも、このプレゼンでも招待学生が一般参加者とゲスト建築家の間に入ることで活発な意見交換が行われた。
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講演会「1/1のために学生がしておかなければいけないこと」
佐藤淳、石上純也、平田晃久を招いて行われた講演会。
構造家である佐藤氏は事前ワークショップにも参加しており、エンジニアリングと意匠、学生と建築家をつなぐ存在として重要な位置づけであった。
また3者のプレゼンだけでなく、プレワークショップで実施を経験した学生と佐藤氏が講師として参加した理科大の実施課題を経験した学生もプレゼンすることで学生と建築家が相互にコミュニケートできる内容になっていたと思う。
佐藤氏と平田氏は同時期に開催されている「20XX展」に関するプレゼン。
この「20XX展」は実際の敷地に架空のプロジェクトをエンジニアリングの援護射撃によってリアリティを持って成立させてしまおうというかなり挑戦的なもので、言ってしまえば学生の課題と同じことである。
1/1というテーマに沿って建築家が実際にどう実施プロジェクトをこなしているかではなく、どのようなリアリティを持って建築を考えるかということを露にする、学生もかなり親近感を得るような内容。1/1というテーマに、敢えて「学生課題」をこなす建築家をぶつけたのは秀逸である。
佐藤氏は「20XX展」をエンジニアリングの視点からプレゼン。
・素材をいかに少なく使うか
19世紀、ツール駅、繊細なトラス、値段が高かったので
→現在、手間の方がお金がかかるが、素材を減らした方が全体としては安価
素材一覧、建築で使えるものはまだたくさんある
・環境
緑化、空気、熱、水、自然を感じて生活する事、
スーパーカミオカンデで素粒子を観測
から、「樹状の建築」というコンセプトが上がり、
・樹状建築の構造安定測定ソフトを駆使した高さ100mの巨大建築に対する感覚を超えた構造計算を説明した。
対して、平田氏は意匠系のアプローチで説明。
・建築の社会的影響力をどうにか示したいというモチベーションがあり、ミッドタウンに代表される床本位性が本当にいいのか、原理は古いスキームではないのかという疑問を建築によって払拭したいとのこと。
→巨大建築が建築家が作ったらどうなるのかを示したい。と。
結果的に、木の原理を内在させた表面積が増えて行く建築を提案。
空間を規定する、床本位性→空間を事後的に見つける脱床本位性へ
ここで、バトンが石上氏へタッチ。
課題のような架空プロジェクトの前者に対して、石上氏は「四角いふうせん」をプレゼン。ここでまた、学生への歩み寄りが図られている。建築ではなく、アート作品ということで、変数が少ない分、施工プロセス、材料、スタディがより明確にプレゼンされた。
建築の可能性について考えられる仕事であればやる
建築では出来ないような空間の可能性を確かめたい
新しい建築ができることによって周りにも影響する
周りの新しい環境を考える事であたらしい建築に
海の中の氷山のような
水槽での実験
図と地を近づけるために丸ではなく四角
一見見渡せないような、かつ一回転してもだめなような、ヴォリューム
面と面の対応によるコンテクストの読み取り
ゆっくりした動きに興味がある、実際建築もゆっくり経年変化する
大きな山と白い雲の関係
という魅力的な言葉とともにプレゼンが進む。
同時に、佐藤氏は石上氏と仕事上のパートナーでもあるので、四角いふうせんの技術的アプローチを補完的に説明。
とにかく、20mを超える物体を浮かすという発想に驚き、それを成立させるために素材、架構、規模の選択、膨大な試作、ちょっとの構造計算、過度な見切り発車が重要であったと、構造的、物質的なアプローチからいかに大変だったかを説明してくれた。
続いて、学生側で実施を経験したプレワークショップグループと理科大佐藤スタジオグループによりプレゼン。
両者とも佐藤氏お預かりということで、素材、構造に焦点を当てた説明となっていた。
最後は会場からの質問に答える形で、建築家の社会的影響力について議論。
石上:言葉、空間。建築家の醍醐味は空間を現実に立ち上げられるということ。
平田:みんなが関心がある事をスパッと建築で答えたい。
佐藤:日本では建築は文化ではない。文化としてのアピール。日本の教育システムは建築家とエンジニアが同じ土俵で学べる。日本の良さを自覚しなければならん。アメリカの契約関係では難しい。
という3者の言葉で締めくくられた。
とにかく、ゲストの配役がすばらしかった。佐藤氏が建築家と学生、エンジニアリングと意匠、1/1と20xx、1/1と四角いふうせんを横断する形で、議論を立体化し、且つ学生にとっても非常に共感できる内容になっていた。
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「1/1制作ワークショップ「仮眠空間」」
講師に松島潤平氏、NOSIGNER氏、斉藤精一氏を招き、仮眠空間を夜通し作るというワークショップ。三者とも素材に着目した人選。
扱う素材は雑誌、プラダン、プチプチ。
講師のプレゼン、素材についてブレストした後、班に分かれて制作開始。
結果的にプチプチ班はいくつものロール状にまとめたプチプチを重ねてベット状にする案を提案し、
雑誌班はブロック状と紙とに読み替え、ブロックは床に並べてベットに、紙は膜としてその上部にかける案、最も空間的。
プラダン班は座ったまま寝て起きやすいイス状の家具を提案。
ブレストから制作まで、プロセスをすべて共有したことが参加者の実感を喚起していたように思う。
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「1/1コンペティション 野点空間」
今年の目玉企画であり、実施を前提とした公開コンペである本企画。
事前行われた1次審査を通過した4作品を実際に制作し、1/1の実物によって2次審査を行うというもので、制作過程も含めたこコンペとなっている。
一次審査通過講評に始まり、制作、二次審査という流れが本番当日の内容となっており、最終的に上位二点が25日、銀座の茶会にてお披露目となる。
実施を前提としているので、審査員も丹下憲考氏、小嶋一浩氏、西沢大良氏の豪華建築家陣に加えて、銀茶会からも山本豊津氏、渡辺新氏も参加した。
審査基準は一次のボード、二次の実物いずれも実現可能性と、実際に建った時の美しさが評価を左右し、単なるアイデアコンペではなかなか吟味されにくい建築のリアリティを露にする意義深いものとなった。
二次までは建築それ自体を作る時の技術的な部分が評価の対象となったが、今後上位二点(千葉大、芝浦工大)は実際に銀茶会に出展することとなる。その中で自分たち以外の他者と交渉し、自分たちの空間を実現していくことになるのだが、それはそのまま建築の醍醐味となることを先のディベートが示している。
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「ディベート 学生が1/1を制作すること・挑戦することの意義とは」
建築家は世代別に鵜飼哲矢氏、福島加津也氏、藤村龍至氏、百枝優氏が呼ばれ、学生側ではBMT、403、ゆらぐ森、g86、1/1コンペファイナリストが並んだ。
建築家側は学生時代の経験や思想から現在に至るまでを自作を交えながらそれぞれプレゼンテーションした。
主旨としては、既に1/1(実施)を経験したことがある学生と世代別の建築家が考える「学生が1/1を制作すること・挑戦することの意義」を議論しようというもの。
まずゲストがそれぞれプレゼンテーション。
まず、最年長の鵜飼氏。
ポストモダン絶頂期を過ごした氏は丹下事務所でのFUJI-TVに始まり、スケールがどんどん小さくなっていく過程と、歴史感覚をお金に置き換えて説明することで1/1は関係性である、と説明。
続いて、福島氏。
ポストモダンの境目、情報化の境目を経験した福島氏は直前のポストモダンに対する社会的価値観の転換を機に、自分にとっての確かなことを探すため、旅を経験し日本の民家を見てまわったという経験を披露。また、課題にうまく取り組めずにいた学生時代に実作を経験したことがその後の建築感を決め、その処女作と最新作がとてもよく似ていることでそれを実感したと述べた。
藤村氏は世代論としての立ち位置をポストモダン(鵜飼)、ポストモダンの終焉(福島)の次の世代として位置づけ、プレゼンを始めた。塚本研でのペットアーキテクチャ(身体)からMVRDVでのspace urbanism(政治)を経験したことでこの2つを基準に、表層と深層、インテリアと不動産と言う具合で、身の回りの身体と政治の対立を即物的に置き換えていくことで実感へ転換していったという経緯を披露した。この2つをつなぐものは建築(模型)しかないという確信もしだいについていった、と。建築による盛り上がりを教育から政治へと育てていくというビジョンも示された。
建築家枠最後はY-GSAを卒業したばかりの百枝氏。実施前提のプロジェクトを3つ披露。身体と風景というキーワードを軸にして、実際に竣工した山小屋のプロジェクトとSDで新人賞を受賞した木/森という作品、同じく昨年のSD入賞を果たした長崎の家をプレゼン。どのプロジェクトも身体感覚をそのまま建築家したようなプロジェクトであった。
対して学生のプレゼンは建築、インスタレーション、パヴィリオンと多岐に渡る1/1をプレゼン。
BMTは関係主体が多く複雑な事業であるベトナムのリゾートプロジェクト、
403は建築家が設計した住宅での空間インスタレーション、
ゆらぐ森は大学祭で使われたパヴィリオン、
g86は自由が丘商店街でのアートキュレーション
といった内容。
ものを作って満足してはいけない、という前提のもと、1/1の意義としては主に2つのことが上がった。
一つはマテリアリティ。実際のものと向き合うこと。
もう一つは他者とのコミュニケーション。クライアントとの打ち合わせや材料の発注等。
その2つをクリアすることは、1/1でしか経験出来ないことであり、それに対してどう反応するのかが最も重要なことであるという解釈。
また、建築を実際に存在させることは一つの結果に上記の様々な反応を収斂させていくことでもあるので、その過程でどのような決断をするのか、もしくはどのような非決断(先延ばし)をするのかに建築の醍醐味があり、それこそが1/1の価値であるという議論になっていった。
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全体を通して、去年と比較してもかなり建築それ自体と向き合った内容だった。
要所要所で建築(家)と学生を近づける意図が感じられ、実施コンペも含め、学生にしか出来ない有意義なコミュニケーションが設計されていた。
とにかく運営委員の皆様お疲れ様でした。